わがままバス

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 わがままバスは、とてもわがままなバスです。ちっとも運転手さんのいうことをききません。 

 信号が赤から青に変わり、まわりの車がいっせいに走り出します。わがままバスの運転手さんも、ハンドルをしっかりとにぎり、アクセルペダルを踏み込みます。でも、わがままバスは走りません。 

「オレ様はねむいんや、バカやろう!」 

 道のまん中で、グーグーいねむりをはじめてしまいます。


 仲間のタクシーを見つけようものなら大変です。 

「負けねぇぞ、このやろう!」 

 と、競走をはじめてしまいます。 

 スピードはグングン上がります。踏んでも踏んでもブレーキがききません。お客さんもまっ青です。


 交差点でもひと苦労です。 

「オレはこっちにいきてぇなぁ」 

 わがままバスは突然左へ曲がろうとします。けれども、バス停は右に曲がった先にあります。運転手さんは、力いっぱいハンドルを右にきります。 

 わがままバスも負けてはいません。左へ左へとふんばります。もう、こうなると、バスと運転手さんの力くらべです。どっちが勝つか? お客さんもハラハラです。


 最後のお客さんをバス停に送りとどけ、運転手さんをのせたわがままバスが、車庫に帰ってきました。 

 一息ついた運転手さんは、わがままバスの窓ガラスを一枚一枚丁寧にふきながらいいました。 

「今日もまた、わがままいってお客さんを困らせてしまったなぁ。バスは、お客さんを安全に、時刻通りに運ぶ使命があるんだよ。わがままばかりしていると、いつかお客さんもバスに乗ってくれなくなってしまうよ・・・」 

 わがままバスはドキッとしました。わがままバスは、わがままばかりするくせに、お客さんを乗せて走るのが大好きでした。お客さんが乗ってくれなくなってしまうのは、とてもたえられません。 

「もうわががまましないと、約束できるね?」 

 運転手さんはいいました。 

 わがままバスは、「バカやろう・・・」とうなずきました。 


 次の日から、「わがままバス」は「わがまましないバス」になりました。道のまん中でいねむりすることも、タクシーと競走することもありません。交差点でも、ちゃんとバス停のある方向へ曲がります。 

 運転手さんも、そんなバスの様子を見てひと安心です。 

「ちゃんと、やればできるじゃないか。なあ」 

 お客さんをおろして車庫に帰る途中、運転手さんが、バスをやさしくさすりさすりいいました。 

  バスは、信号で止まりました。そこは大きな交差点で、人と車であふれています。 

 ふと見ると、女の子が道の向こうに大はしゃぎで手をふっています。赤信号をはさんだ向こうがわに、お母さんの姿が見えます。女の子はいまにも飛び出しそうです。 

「危なっかしいなぁ」 

 運転手さんがつぶやいたその時、女の子はかけ出しました。猛スピードのダンプカーが女の子に気づき、急ブレーキをかけます。 

「あかん、あのスピードでは止まれんわ! 運転手さん、最後のわがまま許してな」 

 バスは叫ぶようにそういうと、迫り来るダンプカーの前に立ちふさがりました。運転手さんは、大きなハンドルにしっかりつかまり、グッと目をつぶりました。 

 ガシャーン! 大きな音とともに、窓ガラスはこなごなに飛び散り、ダンプカーの頭がバスのおなかへめり込みました。 

  びっくりしている女の子を、お母さんがしっかりと抱きかかえました。 

 もうわがままバスは二度とわがままをいいません。運転手さんがいくら呼んでも、バスはこたえることはありませんでした。


 わがままバスは、命がけで子どもを守ったバスとして、修理され、児童公園にかざられることになりました。もちろん動きはしませんが、子どもたちが乗って遊ぶこともできます。 

 運転手さんは、今でもよくその児童公園を訪れます。心やさしいバスと子どもたちの楽しい笑い声をきいていると、なんだか、元気が出てくるからです。


おしまい


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