ユウイチのクラスの担任のロボ川ロボ子先生は、とてもやさしくて、いい先生です。でも、最近ユウイチは、ロボ川先生を見ていて、あることを思わずにはいられませんでした。
「ロボ川先生は、ロボットじゃないかな?」
ロボ川先生は、一歩一歩、廊下や教室を歩く度に、カシャリ、カシャリと音がします。それに、お話をしているときに、ときおり、ピポ、ピポピポと音がします。また、近づいて、よーく耳をすますと、ウィーン、ウィーンとモーターの音がするのです。
こないだも、授業中にこんなことがありました。
「江戸幕府を開いたのは誰でしょう? わかる人いますか?」
ロボ川先生が、クラスのみんなにききました。
「ハーイ! 徳川家康です」
クラスで一番のおてんばで、男子におそれられているヨウコが元気よく答えました。すると、ロボ川先生のからだから、ピンポーンという音がして、先生の目がピカピカ光ったのです。
「じゃあ、室町幕府を開いたのは? これちょっとむずかしいわよ」
「ハイハイ、それは、豊臣秀吉でーす」
お調子者のイッペイがおどりながら答えました。すると今度は、ブッブーという音がして、先生の鼻が、ウィーンと回りました。
クラスのみんなは、変な顔ひとつせず大笑いです。ユウイチは首をひねります。
休み時間にも、こんなことがありました。
教室の前の廊下を、ものすごい勢いでイッペイが駆け抜けます。
「こらっ、イッペイ君! 危ないわよ、ちょっと待ちなさい!」
それを見たロボ川先生が呼び止めます。
「危なくないもんね。ベロベロバー、ヘッヘッ」
イッペイは、そう叫ぶと、おどりながら逃げ出しました。
その瞬間、ロボ川先生の顔はみるみる真っ赤に変わり、耳からモクモク煙が出てきました。そして、靴の底についたタイヤがブルーンと音をたてて高速回転し、イッペイを追いかけました。
「ヤベッ、ロボ川が追っかけてきた!」
イッペイも必死で逃げます。イッペイはクラスで一番走るのが得意です。さすがのロボ川先生もなかなか追いつきません。
「待ちなさい!」
ボシュッ、という音とともに、ロボ川先生の手が、イッペイに向かって、ロケットのように飛んでいきました。イッペイはあっさりつかまってしまいました。
ユウイチはまた首をひねります。ロボ川先生の行動は、どう見ても人間わざではありません。
昨日の三者面談でも、こんなことがありました。三者面談では、ユウイチとユウイチのお母さん、そして、担任のロボ川先生で、ユウイチの学校での生活や、勉強のことについてお話をします。
「ユウイチは学校で、ちゃんと勉強してますか?」
ユウイチのお母さんが、ロボ川先生に聞きました。
「ええ、大丈夫ですよ。ユウイチ君は勉強もしっかりしていますし、お友だちとも仲良くやっていますよ。これが先日行ったテストの結果です」
ロボ川先生が、ユウイチのお母さんに、テストの結果を手渡しました。そしてロボ川先生が話し続けます。
「それから、ユウイチ君のお家での生活な・・・ピポピポ、ピポ」
そのとき、ピポピポと音がし出したかと思うと、次は、ガーガーと音がして、まるでコピーやファックスのように、ロボ川先生の口から、印刷された紙が出てきました。ロボ川先生はその紙を、自分の口からビリッとちぎり読みはじめました。
「あらっ、星からの連絡だわ・・・」
ロボ川先生は小声で言いました。ユウイチのお母さんは、ユウイチのテスト結果に夢中で、そんなロボ川先生に気づかない様子でした。
ユウイチはまたまた首をひねります。ロボ川先生は、もはやロボットに間違いありません。
学級活動の時間に、ユウイチは思い切ってロボ川先生に聞いてみました。
「ロボ川先生、ロボットなの?」
ロボ川先生はギクッとしました。
「ち、チ、チガウワヨ・・・ピポピポ」
ガーガーと、ロボ川先生の口から紙切れが顔を出しました。そこには、ちいさく「ロボットだよ」と印刷されていました。ロボ川先生はウソなどつけないのです。
ロボ川先生は悲しそうにうつむいてしまいました。しばらくして、とつぜんガタンとヨウコが立ち上がりました。
「そんなの、ずっと前から知ってたよ。わたし、ロボ川先生がロボットでもいいよ。先生大好きだもん」
ユウイチは、しまった! と思いました。ロボ川先生がロボットだと、クラスのみんなも気づいていたのです。でも、ロボットだと思われたくない、やさしいロボ川先生を気づかって、黙っていたのです。
「ぼくも、先生大好きだよ。これからもずっと一緒だよ」
イッペイも立ち上がっていいました。
「ごめんなさい、先生」
ユウイチは小さな声でいいました。ユウイチも、いつもやさしくて、おもしろいロボ川先生が大好きでした。
「ありがとう、みんな。でも、先生ね、昨日、星から連絡があって、今晩地球を離れなければならないの・・・」
ロボ川先生がいいました。教室はシーンと静まり返りました。
「イヤだよ、先生・・・」
ヨウコがいいます。
「ごめんね・・・」
ユウイチは、こんなに悲しそうなロボ川先生を見たことがありませんでした。
「じゃあさ、これからロボ川先生のお別れ会やろう!」
クラスの誰かがいいました。よし、やろう、とクラスのみんなでさっそく準備を始めました。
イス取りゲームをしたり、ハンカチ落としをしたり、歌を歌ったり、楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆきました。
もう日もかたむき、まもなくロボ川先生をむかえに、宇宙船が着く頃です。ロボ川先生とクラスのみんなは、宇宙船のやってくる学校の裏山へと向かいました。 ユウイチが見つめる東の空に、キラリと輝く星が現れ、みるみる大きくなりました。それは、銀色に輝く宇宙船でした。
ロボ川先生は、宇宙船に乗り込みました。ユウイチも、ヨウコも、イッペイも、クラスのみんなは、あしたからロボ川先生に会えなくなると思うと、涙をこらえることが出来ませんでした。
空へ舞い上がった宇宙船から、ロボ川先生が大きく手を振りました。ロボ川先生の目から、いくすじも、いくすじも、キラキラ輝くものが流れました。
「あらっ、わたし、涙の機能なんてないはずなのに・・・」
それは、ユウイチたちと同じ、まぎれもない涙でした。
ロボ川先生をのせた宇宙船は、しだいに小さく小さくなって、いつしか東の空へ見えなくなっていきました。
翌朝、ユウイチは、悲しい気持ちで登校しました。いつもは朝から元気なイッペイや、ヨウコも、今日は何もしゃべりません。あの、やさしくて、おもしろいロボ川先生はもういないのです。
チャイムが鳴り、みんな席に着きました。廊下をカシャリ、カシャリと歩いてくる足音がします。ガラッと教室の扉が開いて「おっはよー!」といつも通り、ロボ川先生が入ってきました。
おどろくみんなに向かって、ロボ川先生は、はずかしそうにいいました。
「ゴメン、たいした用事じゃなかったから、もう帰って来れたの」
ピポピポ、ガーと口から出てきた紙切れには「これからもよろしく!!」と書かれていました。
「じゃあさ、これから先生との再会パーティーやろうぜっ!」
イッペイが大はしゃぎでいいました。
「ダーメ、お勉強よ」
ロボ川先生は、ちょっぴり怒った声でいいました。でもその顔は、クラスのみんなと同じように、あったかい笑顔でした。
おしまい