アストロレーサーよし丸 第2章

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 バブル星をスタートした時点での順位は、[1位]ボン太号、[2位]お花号、[3位]よし丸号、[4位]タツ吉号という具合だ。だが、アストロレースでは、はじめの順位はあまり勝敗に関係がない。勝敗を分けるのは、コース取りである。ドリーム星とスピリット星の外側を、なめらかな最短距離のカーブで飛行できたものが最も速くバブル星に帰還できる。やたらめったら加速すれば、カーブが大回りになって無駄な距離がかかるし、逆に、速度を落としすぎれば、惑星に衝突しかねない。

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 よし丸が、コース全体を映し出す立体モニターをにらみながら、いかなるコースを取るべきか頭をひねっていると、シップにバーチャルカメラが近づいてきた。バーチャルカメラは、よし丸号の周りをグルッと一回転し、コックピットのよし丸を撮影している。よし丸はカメラに向かってピースをした。このバーチャルカメラが捉えた立体映像は瞬時にサキガケサーキットに送られる。そのおかげで、観客たちは、あたかもシップが目の前にいるような感覚でレースを観戦することができるのである。

 よし丸は、速度を上げて、すこし外回りのコースを設定した。あまり内回りのコースをとると、スピリット星付近の嵐に巻き込まれるかもしれないと考えたためだ。スロットルレバーを倒すと、シップの後部からガスを噴出するゴゴーという力強い音が響いてきた。

 急加速したよし丸号は、お花号を華麗な操縦テクニックで追い抜き、先頭を飛んでいるボン太のシップに迫った。

「やるわね、今私もコース設定が終わったわ。すぐに抜き返すわよ!」

 そのとき、右手前方を飛んでいたはずのボン太のシップが、突然よし丸号の目の前にあらわれた。

「調子に乗ってたらダメダメボーン。これでも食らえボーン。ケケ」

 ボン太はコックピットの「おなら」と書かれた黄色い大きなボタンを連打した。プープープーという情けない音がして、よし丸のシップは黄色い雲に包まれてしまった。

「ゲッ、なんだこりゃ」

 あたりの様子がまったくわからない。シップの機体スレスレのところを、岩と氷のかたまりがかすめていった。よし丸は危険を感じ、燃料を逆噴射して急ブレーキをかけた。

「ひきょうだぞボン太!」

「ヘッヘッヘッ、ボーンボーン。どんな手を使っても勝てばいいんだボーン」

「バーチャルカメラで、サキガケサーキットのみんながお前の悪事を見てるんだぞ」

「カメラにも『おなら』を浴びせておいたボーン。観客どもは何も見ることができないんだボーン。バイバイキーン」

 ボン太の無線が途絶えた。黄色い雲はなかなか晴れなかった。

「おいよし丸、大丈夫か?」

 一番後ろを飛んできたタツ吉から無線だ。

「ああ、でもまったく視界がきかねんだ。このままだと前へ進めねぇや。くっそーボン太のやつ、反則じゃねぇか!」

「よし、ほなよし丸、おれのシップの後ろへ回れ!」

 よし丸は、そうか! と思いながら、レーダーを頼りに、黄色い雲の間からかすかに見えるタツ吉号の機体の後ろに回った。タツ吉のシップは両方の翼に大きなプロペラがついており、宇宙を飛び交う粒子をシップの後方へものすごい勢いで放出している。その風が雲を吹き飛ばしてくれるだろう。

「思ったとおりや。どんどん雲が晴れてきよるで!」

 タツ吉の言うとおり、よし丸号を包み込んでいたいまいましい雲はたちどころに消え、みるみる視界がひらけてきた。

「よっしゃー、サンキュータツ吉。恩に着るぜ!」

「いいってことよ。ライバルが黄色い雲に包まれてたんじゃ、真剣勝負にならへんさかいな。そやけどボン太とお花にえらい差つけられてしもたで。早いとこ追い上げよや!」

 よし丸は、狂ってしまったコース設定をやり直すことにした。すぐ左を飛んでいくタツ吉が手をあげて笑った。よし丸は「おいらを無視して追い抜くことだってできたのに、タツ吉はいい奴だなー」と思った。

「こちらお花、よし丸大丈夫? なんかあったの? 急に姿が見えなくなったみたいだけど・・・」

「ああ、大丈夫。何も問題ねーよ!」

 よし丸は、再びスロットルレバーを倒した。



 よし丸のシップは予定通りの進路で、ドリーム星の外側にきれいな弧を描いて飛んだ。すでに最新鋭のボン太のシップははるか先を飛んでおり、肉眼では確認できない。お花とタツ吉のシップが放つ輝きをかろうじてとらえることができる。だがレーダーを見ると、彼らのシップとの距離はグングン近づいてきている。コース取りがよかったようだ。

タツ吉のシップに追いつくかという頃、黄色い雲から抜け出したバーチャルカメラが近づいてきた。よし丸はタツ号をにらみ、ニヤリと笑って見せた。サキガケサーキットの歓声が聞こえるような気がした。

 突然、シップがガタガタと揺れ、大きく右に傾いた。

「いってー・・・」

 よし丸は、急な振動でぶつけた頭を抱え込んだ。顔を上げて計器を確認しようとすると、今度は機体が左に傾く。

「よし丸・・・ジジジッ、気をつけろ。ジジ・・・嵐や!」

 タツ吉からの無線が聞こえた。

「ボーン、ジジ・・・ボ!?」

「こちらお花! ジジ・・・大変・・・角つきトンデ・・・ン・・・、この・・・危ないわ!」

 角つきトンデモン!? よし丸は耳を疑った。ここは宇宙連邦の領域内で、アストロパトロールが警備している。非常に凶暴な角つきトンデモンが侵入できるはずがない。

 だがよし丸が、嵐で飛びかう粒子の向こうを、目を凝らしよく見ると、確かに宇宙怪獣トンデモンはいた! 小さな惑星ひとつぶんはある、その巨大な体。目はギラギラ獲物を追い求め、口からは何ものも瞬時に溶かしてしまう白色に燃え盛る炎が噴き出している。よし丸のシップほどはある大きな牙があり、頭には、鋭い角が突き出している。

 操縦かんを握るよし丸の手は、恐怖でガタガタ震え出した。凶暴な角つきトンデモンの前で、自衛のための武器さえ積まないこの小さなシップはあまりにも無力である。近づいただけで、あの炎で溶かされてしまうだろう。

 トンデモンが体の向きを変え、その目が、大きくて目立つボン太のシップを捉えた。そして、首を大きく振りながら、猛烈な勢いでボン太のシップに近づいてゆく。

 岩のかたまりがトンデモンに吸い寄せられ、口から噴き出す白色の炎の中に消えた。

「ボーン! いやだボーン。代わりにお前がいけボーン」

 ボン太が、シップを急旋回させ、お花号に体当たりした。

「ちょっと、やめて! なにするの!?」

 機体の小さなお花号はたちまちコントロールを失い、トンデモンの方へと弾き飛ばされた。

「キャー!」

 トンデモンの鼻から、氷の混じった冷気が噴き出した。お花号は冷気を浴び、機体の半分が凍りついてしまった。急速にバランスを失い機体が大きく傾く。

ヴヴッ、ヴヮオー。

 トンデモンは腹の底に響くおぞましい声をあげ、お花のシップを両腕で捕まえると、上下にブンブン振り回した。

「だ、だれかー、助けてボーン! ママたんー」

 ボン太がフルスロットルで一目散に逃げてゆくのが見えた。

「やばいで、よし丸。お花がトンデモンにつかまってしもたわ!」

「おう、なんとかしねぇと」

「ああ、どないしょ。このままやと、あいつ食われてまうで」

 トンデモンの恐るべき力で、お花のシップは大きくへこみ始めていた。

 ふいに、よし丸の脳裏に遠い昔の記憶がよみがえってきた。よし丸がまだ小さかった頃、よし丸の父ちゃんがこんな話をきかせてくれたのだった。

「宇宙にはトンデモンちゅう怪獣がおってな、それがまたでけぇのなんの、ちっちゃなおめなんかパクッと食われっちまうだろうな。でもよ、トンデモンにも弱点がある。それが腹にとび出した『でべそ』だ。でべそをくすぐってやると、凶暴なトンデモンがたちまち笑い転げるんだってよ。おもしれえだろ! な、よし丸」

 よし丸の父ちゃんは、この数年後、レース中の事故で宇宙に投げ出されてしまったのだった。今は亡き、なつかしい父ちゃんの笑顔を思い出し、よし丸は胸がギュッとなった。そして、ほおに伝った涙をふいて叫んだ。

「へそだ! あいつの弱点はへそだ」

「あのでっかいでべそか? あれが弱点なんやな!?」

「ああ、間違いねえ。ちょっと触れてやるだけでいいんだ。そうすれば、お花を助けられる」

「そやけど、どうやってへそに近づくんや? 炎に飲み込まれてしまうんちゃうか。」

 確かに、興奮して暴れ狂うトンデモンのへそを目指して飛ぶということは、命の危険にさらされることだ。よし丸は自分が弱っちくて臆病なのを知っていた。だが、そんな自分でも覚悟を決めて立ち向かわなければならない時がある。そして、それが今だ!

「タツ吉、おめえはトンデモンの周りを飛びまわって、やつの気を引いてくれ。その間に、おいらがやつの腹に近づく」

「そんな、お前一人を危険な目にあわせられへんわ」

「おめえのシップにはプロペラがついてる。きっとやつは興味を示すはずだ。この役目はおめえにしかできねえんだ。おいらは大丈夫だ。まかせとけ!」

「わかった。でも無理するな」


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 タツ吉のシップが、できる限りトンデモンに近づき、目の前を行ったり来たりした。トンデモンはお花のシップを小わきに抱え、タツ吉号を鋭い視線で追いかけた。タツ吉が操縦かんを大きく手前に引いて上昇すると、トンデモンはこれまでにない激しい炎を吐きながらそれを追った。

 トンデモンがタツ吉のシップに気を取られている間に、よし丸は、トンデモンのへそへと向かった。でへそはよし丸のシップの何倍も大きかった。トンデモンが身動きするたび、でべそも動くので、なかなか進路が定まらない。体のほかの部分に触れたら、トンデモンに気づかれてしまう。なんとしても、一回で間違いなくでべそに刺激を与えなければならない。

「あかん、もう限界や! 炎に飲み込まれてまうわ」

 よし丸は、でべそのまん中に向かって、シップを前進させた。決死の覚悟でスロットルレバーを倒すと、どんどん巨大なでべそが近づいてきた。

「くらえっ!」

 シップの先端がでべそにめり込み、ボヨーン! という感触とともに弾き返された。途端、トンデモンはお花号を放り投げ、ブゴゴブゴブゴと宇宙全体に響くほどの大声で笑い転げた。その笑い声の振動で、よし丸のシップはガタガタと揺れた。

「お花、大丈夫か? 応答願います」

「・・・ジジッ、大丈夫よ。ありがとう! 助かったわ」

「やったな、よし丸! 大成功や」

 そのとき、どこからか光るボールのようなものが飛んできて、笑い転げるトンデモンの目の前でパーンと破裂した。トンデモンはピンク色の煙に包まれ、あっという間にいびきをかいて眠りこけてしまった。

 よし丸がバブル星の方角に目をやると、赤色灯を点滅させた3台の中型シップがこっちに向かってくるのが見えた。


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「こちらアストロパトロール。トンデモンはたった今『眠りダマ』で眠らせました。レーサーのみんさん大丈夫ですか? チャンネル2応答願います」

「お花、なんとか大丈夫です。エンジンの一部とボディーを損傷しました。あー怖かった」

「よし丸です。へそに突入したときに、右側のエンジンと翼が損傷しちまったみたいです。もうちっと早く来てくれたらよかったのにな」

「ほんまやで。タツ吉っす。あいつの火でシップのケツ半分焼かれてしもたがな」

「へそに飛び込んだ!? ではその小さなレース用シップでトンデモンと戦ったのですか?」

「そうでい」

「バーチャカメラの映像で事態を知って、バブル星からすぐに駆けつけたのですが、嵐のせいで発見が遅れてしまいました。まさかトンデモンが領域内に侵入しているとは・・・」

「こっちは危うく死ぬとこやったで!」

「あたしのシップもめちゃくちゃよ」

「申し訳ありません。みなさんがご無事で何よりです。今後はさらに警備体制を強化する所存であります。あとは私たちにまかせて、レースを続行してください。ご協力感謝します」

 そう言い残すと、アストロパトロールのシップは眠りつづけるトンデモンの方へ飛び去っていった。

「あいつら何をいうてるんや? こんなんでレース続行できるわけあらへんがな。尾翼もまともに動けへんし」

「おいらのシップも、片方エンジンいかれちまったからスピード出ねぇや」

「あたしも飛ぶのがやっとって感じ。もうレースどころじゃないわよ」

「ええがな、ええがな、のんびりいこうや。どうせボン太のアホがもうゴールしよる頃やろ」

「そうだな、みんなでのんびりバブル星に帰ろう。・・・ん? あそこに見えるの、ボン太のシップじゃねぇのか?」

「あら、ほんと。間違いないわ」

 前方に、プスプスと弱々しいジェットをはきながら、ノロノロ飛行するボン太のシップが見えた。

「あいつどないしたんやろ? えらいゆっくりやな」

 間もなく、よし丸たちのシップが、ボン太のシップに追いついた。

「おいボン太、お前トロトロとなにしてるんや?」

「ボーン、さっきトンデモンから逃げるときに燃料を使いすぎたんだボーン。これ以上スピードを上げたら、燃料切れでバブル星まで帰れなくなるボーン」

「フン、自業自得よ。あなたのせいでひどい目にあったんだから。お先に失礼! よし丸、タツ吉行きましょ」

 お花が怒り爆発の口調で言った。

「そうはいかの塩辛ボーン。ママたんと、絶対一等賞とるって約束したんだボーン。お前らにはここでリタイア願うボーン。ケケケ」

 ボン太がコックピットにある「捕獲ネット」と書かれたボタンを押すと、ボン太のシップのお尻から、よし丸たちのシップに向かって巨大なネットが飛び出してきた。

「これでお前らは網にからまって身動きすら取れなくなるボーン! キャキャキャ」

「ふざけるなよ!」

 とっさにタツ吉が後ろ向きに旋回し、プロペラをフル回転させた。すると、ネットはフワリとひるがえり、ボン太のシップにしっかりとからみついた。

「ゲロゲロ、なんでだボーン!? クソッ、操縦がきかないボーン」

「まったく、どこまでひきょうなやつや」

 タツ吉があきれ果てていった。お花は怒りで声も出ない様子だった。

「ま、アストロパトロールに助けてもらうしかねぇわな。ハハハ、バイバイキーン!」

 よし丸たちは動けなくなったボン太を残し、のんびりバブル星へと帰っていった。


第3章へつづく

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